環境変化に見合った「仕様変更」を


わが国はこれから急速な人口減に見舞われます。少子化対策でいくらか出生率を回復させるができても、この流れは変えられません。
私たちの暮らしを支える制度やインフラは、人口が増え続けることを前提に組み立てられてきました。その前提が“反転”したことで、今度はその制度が、私たちを苛むようになっています。

例えば社会保障。少なくなる若年世代で、増え続ける高齢世代の医療・介護・年金の費用を負担しなければなりません。税や社会保険の負担は雪だるま式に増え、しかしサービスや保障の範囲は小さくなるという、不可逆的に“割に合わない仕組み”になっていきます。
あるいはインフラ。道路、上下水道、電気、ガス、鉄道など、いずれも人口減少の進む地域で料金収入や税収が減り、使う人(需要)も減り、それでも一定の水準は維持しなければならないという、“股裂き状態”にあります。
これらは、じわじわと確実に私たちの暮らしにダメージを与えています。

ダメージを和らげることは、もちろん可能でしょう。
人手が必要な分野にロボット技術を投入するとか、シェアリングエコノミーを通じて生活にかかるコストを引き下げるとか、予防の強化を通じて病気や要介護にならないようにするとか、コンパクトシティなどの都市政策を通じて一定の人口集積が維持できるにするとか、やりようはあるように考えられます。
しかし、それでも制度やインフラを、「身の丈にあうサイズに縮小していく」プロセスが必要であることに、変わりはありません。

懸念されるのは、社会から“お互い様”意識が損なわれていくことです。
負担が増えセーフティネットが小さくなっていく世では、恩恵に浴せる世帯とそうでない世帯とで不公平感が増していきます。世間の関心や価値基準は、おしなべて「私(我が家)にとっての損得」に矮小化していきます。

他方、国は公的セーフティネットの縮小を“隣近所の助け合い”で埋めようとする政策を、推し進めています(地域共生社会)。もちろん、うまくいく地域もあるでしょう。でも、キーパーソンが1人欠けただけで機能しなくなるのが、地域というものです。現実問題として、固定化されたメンバーで可能な範囲のことだけ無理なく実行するというような、限定的な助け合いにならざるをえません。それも、いつ途絶えてしまうかわからない、脆い互助的セーフティネットです。
しかし、そこに頼らなければならないほどに、私たちが追い込まれているのは事実です。

人口減少社会は、私たちがこれまでで経験したことのない社会です。ならば、環境変化に見合った「仕様変更」が必要です。
社会保障の総費用を一定の範囲に抑えて、それでも各人の抱える人生の危機を回避・脱出・緩和できるような効果的・効率的な使い方に改めていく必要があります。地域での互助的セーフティネットをソーシャルワーク専門家のコミットのもとで全国に構築していく必要がある――と考えます。

以上のような展望のもと、政策・制度設計の議論に資する素材、社会資源の利活用に資する素材を、当研究所では作成し、ご提供しております。


総合社会保障研究所
代表 福島敏之